この文章は1997/5/1 発行,名古屋医師協同組合の”臨床検査センターだより”に掲載されたものを,発行責任者と著者(森博彦)の許可をうけアップしております。NCC-TWIN system は 名古屋臨床検査センターが企画資金調達し,森,篠田,両ドクターのノウハウをもとに作製したものです。
新しいカルテ支援システムの概要
(電子カルテ)
<はじめに>
毎年,年が新しくなるやいなや,おとそ気分がまだ抜けぬまに,通院して見える患者さんのカルテを年度更新せねばならぬ先生が沢山お見えになることでしょう。多くの患者さんのカルテを見ながら,疾病の要点やらアレルギーの有無,既往歴などを新しいカルテに移し替える操作は,日頃多忙で見逃しがちな意外な盲点に気づいたり,検査の不足などをチェックする丁度良い機会にもなるのですが,開業年月を経るうちにその数の多さに少々閉口するのも事実であります。
また,在宅医療を熱心に行って見える先生方は,増え続ける各種の情報提供書類の多さに根を上げておられることでしょう。院外処方を選択していれば,その量はさらに膨大なものになり,もはやコンピュータ等の電子機器の助けなしには,にっちもさっちもゆかぬことは目に見えています。
今回,皆様にお届けする名古屋臨床が新たに開発した<カルテ支援システム>は,これらの問題にある程度の決着を付ける画期的な優れものと言えましょう。
多様な皆様のご要望に100%完璧に答えるシステムである,とは決して申しませんが,事務的な仕事をこつこつと着実にこなす実用的なシステムであると信じております。
<カルテ支援システムで一体何が出来るのでしょうか?>
このカルテ支援システム,正式には,NCC(Nagoya Clinical Center)-TWINsystemと呼ばれております。”TWIN”つまり双子の事ですが,それは検査データの入出力を主に司る部分と,入出力によって蓄積されたデータをいろいろな用途に使い分ける部分,の二つから構成されている事に由来します。
最初の検査データの入出力を受け持つプログラム群は通称”NCCデー太くん”,もう一つの用途に応じてデータを使い分ける部分は,”NCCカル太くん”と親しみを込めて呼ばれています。
*NCCデー太くん*
”NCCデー太くん”は具体的には,(図1)にも示してありますが,(1)検査データのオンライン受信,
(2)検査データのグラフ化,
(3)検査データのリスト出力業務の3つの仕事を担当します。検査データのオンライン受信というのは,名古屋臨床で得られた血液などの検査データを電話回線を通じて各々の先生方のコンピュータにモデムを介して転送するシステムです。これによって検査結果を手入力でコンピュータに入れる手間が殆ど省ける事になります。
また,”NCCデー太くん”にはデータのデジタル表示(図2)以外にグラフ化機能(図3 a,図3 b)も備わっています。いろいろな検査データを自由に選んで頂き(最大10項目)それを時経列(最新データから順番に最大8データまで)順に表示する事が出来ますし,ご希望であればレーダーチャートにしてお見せできるようにもしてあります。グラフ機能を巧く利用すれば患者さんに疾病の治療結果等を一目で判るように説明できるようになるでしょう。いずれにしても検査結果はデジタル処理されてコンピュータの中に格納され,自由に呼び出すことが出来るようになります。
しかしながら,厚生省はまだカルテの完全電子化を認めてはおりません。改竄と機密性の保持がまだ不完全だからです。それ故,現病歴を書き込む通常のカルテを今の所まだ捨て去る事は出来ません。しかしカルテに検査結果をに糊付けする必要は全くなくなり,文字どおりぺらぺらの使いやすいカルテになるでしょうし,年度更新の必要性は殆どなくなることでしょう。
*NCCカル太くん*
”NCCカル太くん”の機能は(図1)にありますように,主に3つの機能を持っています。
第一番目には各種情報提供書類の発行,
第二番目には,カルテ支援システム,((各種情報提供書類の発行))
在宅患者を沢山診ておられる先生は,保健所に提出する寝たきり患者情報提供や,寝たきり老人在宅総合診療科が使う院外薬局に対する薬剤情報提供,診診連携や病診連携に必要な紹介状の作成など数えられないぐらいの書類に頭を痛めてみえる筈です。これらの書類は,経済的にも極めて重要で,将来とも診療所の経営に大きく関与してくるものと思われます。よってこれらの書類作成に係る労力を削減し,質の高い情報を患者或いは関連施設に提供することは,診療所や病院自身の医療ステイタスにもなるはずです。(図4)をご覧ください。ここではどのような情報提供書が入力でき,打ち出しができるかを選択する画面です。診療情報提供書,薬局への情報提供書,院外処方箋,訪問看護ステーションに対する指示書打ち出しが可能である事がお判りになると思います。(図5a,図5b,図5c)は保健所,訪問看護ステーションに毎月提出する寝たきり老人診療情報提供書の入力画面を示しています。御覧の通り必要な項目はマウスでクリックするだけ,実に簡単に入力を終了する事ができます。対象となる複数の患者さんのデータを一括印刷あるいは個別印刷が可能ですから,用途に従っていろいろ選択できるように考えてあります。(図6a,図6b )は,薬局の訪問薬剤師への患者情報提供の入力画面を表しています。先ほどの診療情報提供と同じように総てマウスによるワンタッチ簡単入力で,コンピュータを初めて触られる方にも決して恐怖感を与えない設計になっています。特別な内容を記載する必要があるときのみ,ワープロ入力を使って頂くだくようになっております。こうして打ち出した3種類の情報提供書の一例は(図6c)のようになります。
((カルテ支援システム))
SF映画によく出てくる医療現場では,医療データは総てデジタル化され必要に応じてあらゆるデータを机上のコンピュータで見ることが出来る,と言うことになっています。しかし,現実の世界ではそう簡単に,物事は運ぶことはできません。なぜならデータは総て何らかの方法で予め入力されねばならないからです。この入力の手間が総てのネックになっているのです。検査データの入力に関しては,幸いにして本システムでは既に解決済みであります,しかし文章の入力は今の所,音声入力も誤動作が多く,結局,自分でキーボードから入力するか,或いは代行入力を依頼するしか残念ながら手はないようです。カルテ支援システムは(図7a)に見られるように,カルテ番号をキーとしてあらゆる情報を列として保存されますが,その内容は主に,住所や氏名,保険情報,希望する情報の種類等で患者管理項目と(図7b)に示したように診療項目,の二つを含む診療画面からなっています。診療画面には,薬剤禁忌,家族歴,既往歴,妊娠歴(婦人科),そして,その他の検査も丁度通常のカルテのように随時に見ることが出来ます。プロブレムリストには患者さんの問題点等を経時的に書き連ね,総合的な医療情報から物事(疾病)を判断する場所として多彩な役割を演じることが出来るようになっています。
((患者情報の共有))
在宅24時間連携体制を取って見える複数の診療所(診診連携)では救急の際や主治医の不在時に備え,特定の患者情報をお互い常に共有する必要性が生じてきます。NCC-TWINシステムでは特定のグループ内では,特定の患者さんの情報を随時見ることが出来るように致しました。これによって主治医が用事で出かけて救急連絡が取れない場合,副主治医がこの情報システムを使い柔軟に対処する事が出来る筈です。患者情報共有の概念は(図8)のようになります。
<将来の展望> 厚生省は既にいろいろなプロジェクトを組み,カルテの電子化に取り組んでいます。3/23/97に横浜で開催されたHealthcare Information World 97 では,すでにその一端が発表されており,画像情報,データ交換の手順や文字情報の標準化,病名概念の統一,など具体的な成果を上げています。
近い将来,間違いなく医療の世界にも情報公開の波が押し寄せるでしょう。その時までに,我々診療所,中小病院レベルの医師が医療情報に対してどのような意識改革をなし終ているかが大切な所でしょう。
医療情報の電子化は,当然,情報の共有を視野に入れており,機密性の保持,カルテ改竄の防止など解決すべき問題が山積しています。そういう意味では,まだ不完全ではありますが,NCCの開発したカルテ支援システムのような情報の電子保存方法に馴れておくことは,将来への良き投資だと思うのです。